著者は昨年亡くなった著名なイラストレーター。作家村上春樹との共著も多い。本作は全国の、どちらかと言うとマイナーな城下町を訪ねる著者最後の紀行エッセイ集である。

村上、行田、安中、掛川、西尾、大洲。決して知名度が高いとは言えない町ばかりである。姫路城や大阪城のように歴史の表舞台に登場した城は残念ながら取り上げられていない。

城郭ファンの間では「身分が低い」復興天守閣(近年になって鉄筋コンクリート造りなどで再建された城)を擁する城、はたまた逆にほとんど城跡といえるほどの遺構が残っておらず、地元の人々からも忘れられかけている城など、従来見過ごされていた城ばかりをめぐっている。

しかしどんな地味な城下町にも、今そこに住んでいる人たちの息吹があり、町の匂いがある。暮れなずめば夕闇の中から浮かび上がる居酒屋や宿の灯りが旅人を手招いている。そんなしみじみとした旅を味わいたい人にはうってつけの本である。
[文藝春秋2014年6月刊 税別1,400円]